第8話 目だって風邪ひくよ

アデノウイルス感染により引き起こされる角膜と結膜の急性炎症で、成人ではアデノウイルス8、4、37、19、3型などがある。特に8型は伝染性が強い。
ウイルスは細菌より小さな目に見えない微生物である。このアデノウイルスは直径約80nmの正20面体で、上気道感染症や消化器感染症も起こし、特殊なウイルスではなく、どこにでもいるウイルスである。
アデノ3型は夏風邪、4型はプール熱を起こす。いわゆる、角膜と結膜のウイルスに因る風邪ひきみたいなものである。体や目の抵抗力が低下し、ウイルスに負けると発症してくる。グラム陰性桿菌などの細菌混合感染を合併すると症状はひどい。

潜伏期間(感染してから発症するまでの期間)は、7〜14日といわれるがもっと早く発症する人もいる。自覚症状として、眼球結膜(白目)の充血、瞼の腫れ、涙が出る、目やにが出る、痒み、異物感など様々である。他覚的所見として、眼瞼及眼球結膜の充血や濾胞や乳頭形成が見られる。耳前リンパ節の腫脹を伴う事がある。

結膜擦過物のアデノウイルスの診断が重要である。蛍光抗体法、PCR-RFLP法およびPCR-sequence法がある。アデノチェックという新しい検査法が市販されるようになり診断が簡便化された。陽性率70%、第5病日までが陽性率高い。(但し、検査代金が高い)

ウイルスを直接殺す特効薬は無い。風邪と同様に症状を和らげるためと雑菌対策として抗菌剤と消炎剤を点眼する。従って点眼しても急には治らないし、症状が治まるまで1〜2週間かかる。治療のお助け対策として、

  1. 体が疲れている時に発症し易いので、ウイルスに対する抵抗力をつけるために風邪同様に体を休める。
  2. 他の人への伝染の危険もあることから思い切って仕事を休むこと。
  3. 目に触れた後の手洗い。

が大切である。

 

アポロが月に行った頃に流行したこともありアポロ病とも呼ばれるが本当でしょうか。同じウイルスでもエントロウイルス70型の感染により発症する。潜伏期間が非常に短く、感染後1〜2日で劇的に発症する。派手な結膜下出血を伴った目やに、眼痛、灼熱感などがある。

以前はトラコーマという病名で眼科受診する眼疾患の代表として知られていたが、テトラサイクリン系の治療薬で撲滅されたと思われていた。しかし、原因であるクラミジア科のC.trachomatisは、最近では呼吸器疾患、泌尿器、生殖器にみられる性感染症として注目されており、結膜炎も着々と増加している。トラコーマ(A~C型)と、性感染症(D~K型)は血清型が異なる。

新生児は妊婦の産道で感染し、分娩の5~12日後に眼脂、眼瞼の腫れ、充血などで急性に発症する。細菌感染の合併で角膜穿孔する恐れがあり、1ヶ月後には咽頭炎や肺炎を併発する事があるので産科、小児科との連携が大切である。大人では大きな濾胞性結膜炎を起こし、眼脂が多く、角膜に血管侵入や上皮混濁を起こしてくる。

性感染症(尿道炎や子宮頸管炎が多い)の自覚症状は乏しいが、抗菌剤やステロイド剤の点眼で難治性の目やにの多い結膜炎の場合には本疾患を考え全身治療も必要となる。

季節性のアレルギー性結膜炎の総称で、春先のスギ、秋のブタクサが代表的であるが、1年中どの花粉にも反応する。ハウスダスト、カビなど過敏症がベースにある場合がある。最近では、点眼薬(防腐剤などの添加物)、住宅からの化学物質に対するアレルギーが注目されてきている。治療として原因除去が中心となるが、抗アレルギー剤を点眼し、重症例ではステロイド点眼を併用する。添加物の入っていない人工涙液でアレルギーの原因となる物質や痒みの原因となる物質を洗い流す事も大切である。

眼瞼の腫れや目やにの代表疾患として麦粒腫=瞼にある油の腺の細菌感染によるできもの(急性化膿性炎症)がある。同じ瞼にできる霰粒腫=ふきでもののようなもの(慢性肉芽性炎症)もある。この霰粒腫の急性に化膿してくると麦粒腫に似て、瞼が腫れ、目やにや痛みを伴う。結膜にも細菌感染が発症し、結膜炎同様の症状が出たり、早期には瞼が腫れぼったく、ゴロゴロ感、目やにが出て充血する。痛みを伴うことが多いので鑑別できる。治療は抗菌剤の点眼や内服、場合によっては切開手術を施行する。下記の時には注意したい。

  1. 繰り返して起こるまたはたくさん大きなものが出来る時には、細菌に対する抵抗力が落ちている、例えば糖尿病や白血病などの血液疾患が隠れている可能性があるので内科医と相談も必要となる。
  2. 瞼の縁に塊が出来やすい時には、血液の脂肪分(コレステロールや中性脂肪)が多い事も有るので内科受診を薦める。
  3. しこりが大きくなる、なかなか治らない、表面が凸凹している、あまり痛くない時には頻度は少ないものの瞼の癌という事もある。放置せず眼科医と相談する。

眼球結膜が充血し、ごろごろした異物感を感じる。目やにが出る事もある。瞼の縁に赤いブツブツが並んでいて触ると痛みがある。瞼から顔面に広がる事も稀にあるので要注意である。