第5話 涙の働きとドライアイ

比重は1.59%、浸透圧は0.9%の生理食塩水に相当する。正常時の正常分泌と何か刺激があった時や泣くときに主涙腺から出る分泌がある。この正常分泌は極めて少量で、1分間の分泌量はわずか約0.7~1.2ul、就寝時にはさらに涙液交換率は低下する。角膜表面に約1ulの涙液が厚さ約7umの非常に薄い均一な涙層を形成し、外側にマイボーム腺から分泌された油の膜でコーティングしている。ちなみに点眼薬1滴量は30~50ulに設定されている事が多い(眼科から処方される点眼薬は5mlが多いので、1瓶は100滴分に相当する)。
 
涙の働きは、

  1. 目の表面を潤わせ、角膜・結膜を保護する。異物を洗い流し、目の表面を掃除する。
  2. 角膜に栄養を与える、瞬きを介して大気から取り込まれた酸素を角膜に供給する。
  3. リゾチームに代表される殺菌作用、目を外敵から守る。

簡単に言えば、たっぷりの綺麗な涙で目の表面に酸素と栄養を与え、しっかりとした瞬きで綺麗にお掃除してくれる栄養ドリンクの様な物である。

 

その定義は、「涙液の量的または質的異常により引き起こされた角・結膜障害」と教科書には記載されている。目に悪い涙とは、単に分泌量が少ないだけではなく、瞬目が悪い為に涙の入れ替わりや表面のカバー力が悪かったり、涙の分布が均一でなかったり、分泌物が多いために涙が汚れて新陳代謝異常を来している涙の事である。

 

自覚症状は、慢性の眼表面の乾燥感で何ともはっきりしない事が多く、例えば「なんとなく不快」「乾いた感じ」「重たい感じ」「疲れる」などである。ドライアイ人口はおよそ800万人から1000万人といわれ年々増加し、10年前と比べて患者数、重症例が増えてきている。その背景には、ドライアイに対する患者の意識の向上も挙げられるが、日常生活に不可欠となったパソコンの普及による瞬目減少や涙液分泌減少、涙液の質の低下が挙げられる。空調により室内の乾燥、ソフトコンタクトレンズ装用者の増加により、角膜はトリプルパンチを受け、ドライアイは増長されてくる。調節異常の60%はドライアイを合併していると言われている位である。

 

涙の分泌減少のみならず、マイボーム腺分泌機能不全(瞼にある脂分泌腺からの分泌が減じ、目の表面の油分カバー力低下)と、角膜表面すぐのムチン層分泌低下のドライアイが注目されている。

 

ドライアイの治療には、防腐剤無しまたは少ない人工涙液、角膜保護剤、目の抵抗力をつける為に毒性の少ない抗生剤を定期液に点眼する。これらの目薬は乾燥感や目の症状を改善させる。喉の渇きをおさえるミネラルウォーターの様なものである。なんと言っても1番の目薬は良質の涙である。量と入れ替わりを良くするために、ゆっくりとした「まばたきしている」と感じる位の瞬目が大切である。更には、涙液の過剰な蒸発を防ぎ、平滑な光学面を形成し、涙液の表面張力を助け、瞬目をスムーズにする涙の外層にある綺麗な油膜を作ることも大切である。瞬きした時に泡が眼瞼縁にたまるようであれば、油膜不全が感柄れる。入浴時にでも蒸しタオルを目の上にのせて、温まった時に目の縁を押さえて拭くと良い。約1ケ月位根気強く毎日行ってみると、目の疲れも取れて良い方法で、以前から行われている温罨法という一つの治療法である。重症例では涙点プラグ閉鎖などの外科的治療も必要となる。

 
この1年でムチン層分泌を促す点眼薬(ジクアス・ムコスタ)が発売され、ドライアイ治療に朗報である。このドライアイには、シェーグレン症候群など全身疾患が隠れていたり、薬剤性上皮障害で似たような状態になることから、安易に市販薬で済まさず、眼科医に相談に来て欲しい。