アレルギー疾患とは、体に何らかの有害物質が入ってきた時に体が自分の身を守る為に有害物質を体外に排出し、抵抗力をつける免疫反応により起こってくる疾患である。 鼻炎、結膜炎、皮膚炎から全身への影響まで個々人により、時期などの他の条件により多彩である。 通年性のものと季節性のものがある。 花粉症とは植物の花粉が原因となって起こってくる季節性アレルギー疾患で、春先のスギ、秋のブタクサが代表的である。しかし1年中、他のどの花粉にも反応する。 又、ハウスダスト、カビなどに対する過敏症や最近では他の点眼薬、排気ガスや住宅からの化学物質に対するアレルギーやストレスがベースにあることが注目されてきている。
季節性に出現し、掻痒感、充血、流涙、糸を引くような眼脂などの急性結膜炎様の臨床像を呈する。 涙液中のスギ花粉などのアレルゲンが目に入ると、抗原特異的IgE抗体を産生する。 結膜局所に存在する肥満細胞表面のIgEレセプターと結合し、肥満細胞よりケミカル・メディエーターと呼ばれるヒスタミン、セロトニンが眼局所に遊離される。これが三叉神経、毛細血管に存在するヒスタミン受容体に作用して、眼掻痒感、充血、流涙などの目局所症状が発現する。 スギ花粉症の初期に風邪をひくと風邪ウイルスに因る結膜炎や花粉症が誘発される事がある。程度の差と発症の前後はあるが鼻炎との合併が多い。
1. 目のアレルギー反応の証明
めやにの中の炎症細胞の種類で原因を鑑別する。以前は染色して顕微鏡検査が必要であり、実施は非常に少なかった。最近では染色方法も簡便になってきたとはいえ一般に普及されるまでには至っていない。
2.アレルゲン(アレルギー原因物質)の検出
皮膚テスト(スクラッチテスト)は、診断用アレルゲンスクラッチエキスを用いて前腕皮膚で判定する方法であり、安全性が高い方法である。スギだけでなく、いくつかの原因が考えられる場合には、抗原特異的IgE抗体を調べる血清学検査が良い。1回の採血で多項目のアレルゲンについて測定できる。
- 衣類に花粉が付着しない素材のものを着用する。例えば毛のふかふかしたものよりナイロン製の方が付着しづらい。
- マスクの装用。花粉症用マスクの方が花粉を通し辛い。毎日洗濯し、花粉が残らないように心がける。 立体感の使い捨てマスクも販売されている。
- 帰宅時や入室時に外で花粉を落とす。
- 帰宅時に洗顔やうがいをする。
- 花粉は重いので循環しない又はフィルターの細かい掃除機を使って除去する。
- 花粉除去フィルターのついた空調機を設置する。
- 刺激物、アルコール、ヒスタミンを多く含んでいる食べ物(筍、山菜、山芋など)の摂取を控える。
- 体調、自律神経のアンバランスでアレルギー症状は悪化する。
《アテンション》
患者様に良く質問される事に「市販されている洗眼液を使うと気持ちが良いが使ってもよいか」という事がある。この洗眼液には高濃度の防腐剤が含まれている事が多く、薬剤性上皮障害を来す危険性がある。その上に、まぶたや睫毛の汚れや付着した花粉や雑菌を目の表面につける可能性がある。洗眼直後は気持ちが良くても障害の点から、お薦めしない。
防腐剤無添加人工涙液による洗眼
目の表面へのアレルゲンである花粉や眼症状を起こしてくる原因物質であるケミカルメディエーターを洗い流すことで症状の軽減をはかり、眼脂を洗い出す目的で推奨している。
1日に4~6回行うと良いが、点眼薬の中に含まれている防腐剤による薬剤性角膜上皮・結膜障害の危険性や涙液のバリアー破綻を来す可能性がある。防腐剤の入っていない人工涙液(1本ずつの使い切りタイプで薬局で販売されている)が望ましい。
点眼時に乾いたティッシュでごしごし拭かない
点眼薬による接触性皮膚炎の予防のために目の周りに点眼薬が残らないように拭き取る方が良い。しかし、乾いたティッシュやタオルでごしごし拭くと、まぶたの上皮に傷をつける。
消毒された硼酸綿で拭き取るのが最も良いが、なかなか市販されていない。口や手を拭くウェット・ティッシュは湿っているが、アルコールや消毒薬が含まれており、却って刺激したり皮膚炎を起こしたりする。
花粉症の時期のコンタクトレンズの装着の注意
コンタクトレンズ、特にソフトレンズは花粉症の時期には装用を控えるか、装用時間の短縮、ソフトレンズの1日使い捨てへの変更を。
コンタクトレンズが目瞼の裏への刺激、目やにのためのコンタクトレンズの汚れによる症状の悪化、花粉がレンズに付着したりドライアイによる花粉の目への滞留時間の延長、抗アレルギー点眼治療法の制約などが上げられる。重症の時期だけは我慢!!
鼻をかむ時に、目をしっかりつぶる。
鼻と目は鼻涙管で繋がっている。しっかり目をつぶることで涙小点が塞がり、鼻で吸い込んだ花粉や涙と一緒に鼻へ流れ出た花粉が鼻涙管から目へ逆流するのを少しでも防げるという。
症状が発現する前から抗アレルギー薬の治療を開始すると、眼や鼻炎の症状が軽減されるという。
A.減感作療法(免疫療法)
抗原エキスを薄い濃度から濃い濃度へ、まず3ヶ月は毎週、その後1ヶ月おきと感覚をあけて注射する方法である。効果は70~80%といわれるが、2~3年と長期間かかる上に注射をするという点で専門家の間でも賛否両論に分かれる。
B.抗アレルギー薬内服
内服による花粉症の症状の抑制の報告があるので、鼻炎や重症例では1日に1~2回内服する方法である。効果の個人差があり、副作用(眠気、口渇、全身倦怠感など)や他の内服薬との併用で投与上注意を要する場合がある。内科や耳鼻科と連携し、担当医と良く相談することが大切である。
C.民間療法
漢方療法(例えばスギの茶葉、スギナ茶、甜茶など)、ツボ療法(針やお灸で花粉症のツボを刺激)、アロマテラピー(ペパーミントやラベンダーが良いと言われている)がある。確かにストレス解消とリラックスで症状が減じると言われるが効果の検証はない。
A.点眼薬治療
1.抗アレルギー点眼薬
抗ヒスタミン作用のない点眼薬(インタール、ケタス、アレギザール、ペミラストン、リザベンなど:商品名)と抗ヒスタミン作用のある点眼薬(ザジテン、リボスチンなど:商品名)を指示に従って1日2~4回点眼する。塩化ベンザルコニウムの含まれないインタールUDの発売でより安全にソフトコンタクトレンズの上からも点眼できるようになった。
病態、時期、個々人の生活条件(コンタクトレンズ装用の有無、コンピューター作業時間、睡眠時間など)、他の点眼治療薬使用の有無によって点眼薬の組み合わせや点眼方法を決めている。例えばソフトコンタクトレンズ装用中止・変更が不可能な場合やドライアイを伴う患者には、塩化ベンザルコニウムなど防腐剤の入っていない人工涙液点眼併用も指示している。
耳鼻科ほど確率された治療法ではないが、花粉飛散の2~3週間前から抗アレルギーの点眼(初期療法)により花粉症の症状が軽減されたという報告があるので、1月末から抗アレルギー点眼薬を処方している。
2.ステロイド点眼薬
抗アレルギー点眼薬の発売前では、消炎剤として花粉症治療の中心的役割を演じていた。フルメトロン、リンデロン点眼液(:商品名)を1日4回点眼する。
副作用であるステロイド緑内障や重症な角膜・結膜感染症の発症があることから、花粉症ピーク時や抗アレルギー点眼薬や内服治療でも治療効果が乏しい時に点眼するように指示し、極力点眼しない方針で処方している。眼科医の診察を受けながら点眼する。緑内障家系、コンタクトレンズ装用者、長期間や頻回点眼は是非止めて頂きたい。
B.眼軟膏
花粉症に伴う眼瞼炎の治療にはステロイドの入った眼軟膏を処方することがある。しかし、点眼薬による接触性皮膚炎との鑑別診断が必要であり、皮膚科医との連携が大切である。ステロイドの副作用である緑内障や白内障の発症、皮膚の色素沈着を配慮しなければならない。白い色のクリーム状軟膏は伸びが良い様な物質が含まれている物もあり、目に入ると困るので目の周囲には使えない。